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アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)について

アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)は、脳の神経細胞が通常よりも早く減少してしまうことで認知機能が徐々に低下していく病気です。日本にいる約460万人の認知症患者のうち、約半分がアルツハイマー病と言われています。

アルツハイマー病の症状

アルツハイマー病の症状は多彩ですが、代表的な記憶障害の症状として、新しいことを覚えられず、同じことを何度も聞き返すといったことが挙げられます。一方で、ずっと以前の記憶(遠隔記憶)は病気が進行しても保たれていることが多いです。また、年月日などの時間感覚があやふやになり、日常生活の準備や買い物、支払いが困難になることもあります。アルツハイマー病は多様な症状が現れますが、主に以下の2つに大別されます。

中核症状

記憶障害

記憶障害は、記憶の3つのステップ(記名→保持→想起)のいずれかの障害で起こります。アルツハイマー病の場合、早期ではまず記名の段階で障害されるため、新しいことが覚えられなくなるといった症状が出現します。ですが、過去の記憶などは問題がなく、幼少時の出来事などはしっかりと覚えていることが多いです。

臨床上大切なのは、いわゆる普通の物忘れなのか、病的な物忘れなのかという違いを見極めることです。
誰しも物忘れは経験することと思います。普通の人でも経験する物忘れのことを生理的健忘(けんぼう)といいます。例えば「昼食に何を食べたかを忘れる」「人や物の名前が出てこない」など、体験したことの一部を忘れはしたものの、体験したこと自体は覚えており、物忘れをしているという自覚があるのが生理的健忘です。

対して病的な物忘れの場合、「昼食を食べたこと自体を忘れる」「数分前のことが全く思い出せない」など、体験そのものが完全に忘れてしまいます。また本人には物忘れをしているという自覚がないのも大きな特徴です。

失語

聞いた言葉は理解できるが話せない「運動性失語」、話はできるが相手のいうことができない「感覚性失語」などがあります。認知機能の低下では、ものの名前が出にくくなる、などの症状が出ることがあります。

失行

麻痺などの運動障害がないのに、日常生活で普通に行っている行動ができなくなることをいいます。服が着られなくなる「着衣失行」などがその例です。お茶を入れる、歯を磨くなど個々の動作は可能なのに、一連の動作が困難となる「観念失行」などもあります。

失認

目や耳などの感覚機能に異常がないのに、物体を認識できなくなることをいいます。例えば、視力の障害がないのに目の前に出された物が何かわからない「視覚性失認」、よく知っているはずの場所で道に迷う「地誌的失見当識」などがあります。

遂行機能障害

計画を立てて物事を行うことができなくなることです。遂行機能に障害があると、例えば料理をすることが困難になります。
電車でどこかへ移動するときには「駅に行く」、「目的地までの料金を調べる」、「お金を用意する」、「自動券売機にお金を投入する」、「目的の切符を購入する」などの一連の作業が必要ですが、そのような作業も困難となります。

周辺症状(BPSD)

妄想

認知症による妄想とは、認知症患者が事実でないことを現実に起きたかのように信じ込んでしまうことです。 大事な物を盗られたと主張する「物盗られ妄想」や、悪口を言われたり妻が浮気をしたりと、現実にないことを訴える「被害妄想」などが代表的です。他にも、自宅にいてもどこかに帰りたいと訴える「帰宅妄想」もあります。

易怒性・被刺激性の亢進

怒りっぽくなるというのも認知症患者の特徴的な症状の一つです。具体的には、急に不機嫌になる、大声を上げて周囲を威嚇する、殴りかかろうとするなどです。どちらかというと女性よりも男性に多く見られる傾向にあります。

脱抑制

認知症患者では社会的に不適切な行動や衝動的な行動が目立つようになります。前頭葉の機能低下によって引き起こされるとされており、前頭側頭型認知症では特に目立つ症状ですが、アルツハイマー病の患者でも時に見られます。

  • 行列に割り込む
  • 診察の途中で帰ってしまう
  • TPOをわきまえた行動ができない
  • 卑猥なことを言ったり異性の体を触ったりする

などが代表的な行動です。

徘徊

徘徊は、認知症の方の記憶障害や見当識障害が原因で、自分のいる場所や時間の感覚があいまいになり、道に迷い、途方もなく歩き続けてしまうことです。転倒による怪我、夏場の脱水や熱中症、冬場の低体温症など深刻な状態になることも多くしっかりとした対策が求められます。

抑うつ

周辺症状による抑うつでは、意欲が低下して何事にも無関心になったり、ふさぎ込んで家から出なくなったりします。食欲が減退することも多いです。抑うつが目立つ場合、認知症と診断される前にうつ病と誤診されるケースもあります。

アルツハイマー病の原因

異常なタンパク質(アミロイドβ)が蓄積することで神経細胞が破壊されることが原因と現在では考えられていますが、まだ完全に解明されたわけではありません。遺伝的要因、生活環境、生活習慣など様々な因子が絡み合っていると考えられています。特に最近では遺伝子型の研究が進んでおり、アポリポ蛋白E(APOE)遺伝子が原因遺伝子として注目を浴びています。APOE遺伝子にはε2,ε3,ε4の3つのタイプがありますが、ε4の遺伝子を父親、母親双方から受け継いだ場合、通常の約12倍の発症リスクがあることがわかっています。ただし、その場合でも絶対に発症するというわけではなく、また別の原因遺伝子の可能性も複数報告されており、今後研究が進むことが期待されています。

アルツハイマー病の診断

アルツハイマー病の診断には、複数の検査を組み合わせる必要があります。

まず、長谷川式認知症スケール検査やMMSEと言われる心理検査が必要です。場合によってはADASと呼ばれるさらに高度な心理検査なども必要となります。それらの検査で認知症もしくは認知症疑いとなった場合、次に画像検査として頭部MRI検査が必要です。このMRI検査によって、認知症の原因を大まかに分けることが可能となります。脳梗塞や脳出血、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、水頭症などによる認知症を除外することができます。さらに、アルコール性認知症やその特殊形(ウェルニッケ脳症)も疑うことが可能となります。典型的なアルツハイマー型認知症であれば心理検査及びMRIのみでほぼ診断することが可能ですが、中には他のタイプの認知症(レビー小体型認知症、嗜銀顆粒性認知症、前頭側頭型認知症、大脳皮質基底核変性症など)との判断がつきにくい場合もあります。

その際は、SPECTと呼ばれる脳の血流分布がわかる検査によって更に鑑別の精度を高めたり、SPECTの中でも特殊なDATシンチという検査方法を用いてレビー小体型認知症の確定診断を求めたりすることもあります。また、さらに精度を期待する場合にはアミロイドPETと言われる検査や髄液検査を行うこともあります。特に後述するレカネマブという治療薬を使用する場合はこのアミロイドPETもしくは髄液検査にて、アルツハイマー病の確定診断をすることが必須となります。

アルツハイマー病の治療法

現時点ではアルツハイマー病を完治させる方法はありません。あくまで症状の進行や発症の時期を遅らせることで精一杯です。また、薬物療法のみに頼るのは懸命ではありません。
複数の治療方法を組み合わせ、少しでも病状の進行を遅らせることが肝要です。治療法には薬物療法、被薬物療法の2つに大別されます。

薬物療法

コリンエステラーゼ阻害薬(神経伝達物質を増やす)

現在、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンの3種類が存在します。ドネペジルは1日1回の服薬で済みますが、服薬当初は食欲が低下したり嘔気が出現することがあります。また易怒性が増すこともあります。このような副作用を低減するため少量から開始する必要があります。リバスチグミンは1日1回張り替えるタイプの貼付剤です。内服が難しい患者さんには一番適しています。また、食欲増進効果が認められるため、意欲が落ちたり食欲が落ちている患者さんには第一選択となります。ガランタミンは1日2回の投与が必要な薬剤ですが、こちらは水薬があるのが特徴です。また、ドネペジルでは副作用などで内服ができなかった患者さんには試す価値があります。

NMDA受容体拮抗薬(NMDA受容体の働きを抑える)

現在NMDA受容体拮抗薬としてはメマンチンのみが存在します。コリンエステラーゼ阻害薬と併用して用いることが可能な薬剤です。また、コリンエステラーゼ阻害薬がどちらかというと気分を高ぶらせる効果のある薬剤なのに対して、このNMDA受容体拮抗薬は気分を落ち着かせる効果のある薬剤となっています。ですので、易怒性などが目立つ認知症患者に対しては、まず最初に投与を検討することが多いです。保険上は中等度以上のアルツハイマー型認知症に対してのみ適応が通っていますので、使用する際には注意が必要です。

生物学的製剤(アミロイドβを取り除く)

2023年9月25日に厚生労働省に承認され、同年12月20日に保険承認された点滴の薬剤です。2週間毎に外来にて点滴を投与する必要があります。副作用がない限り、最低1年半は継続することになります。非常に高価な薬剤であり、また脳がむくんだり少量ですが脳出血を来す可能性もあるため、投与する際は厳密なアルツハイマー型認知症の診断が求められます。アミロイドPETもしくは髄液検査による確定診断が必須となります。投与することで最大3年程度、症状の進行を遅らすことが出来るとされています。

非薬物療法

運動療法

認知症の運動療法には、有酸素運動や筋力トレーニング、ストレッチなどがあります。特に認知症に特化した運動療法として、頭の作業と運動をあわせて行うマルチタスクを課す方法が有効とされています。ただし、高齢者が多いため、安全には十分配慮した環境下で行う必要があります。

芸術療法(アートセラピー)

絵画や造形活動、音楽、俳句、演劇、ダンスなどの芸術活動を行うことで認知症の進行予防や周辺症状の改善を図る治療法のことを言います。楽しみながら行うことで精神的な安定につながり、完成した作品を通じて成功体験を重ねることで患者本人の自信につなげることも可能となります。スタッフや家族とのコミュニケーションの機会も増え徘徊や不安などの症状が改善する可能性もあります。

ペット療法(アニマルセラピー)

動物と触れ合うことでストレスの緩和、精神的な落ち着きなどの効果が期待できます。また活動性の向上を促すことにも繋がります。実際にアニマルセラピーを導入した施設とそうでない施設では、前者の方が有意に精神的ストレスが少なく、またうつ状態の割合も少ないという結果でした。現在では主に訓練を受けしつけ、服従の基準を満たし認定されたセラピードッグが用いられています。ただし一部の患者さん(動物アレルギー、昔噛まれたトラウマなどがある)には注意する必要があります。

認知リハビリテーション

認知症患者が生活を維持するためには、残存している能力を利用して失われた機能を補完していく必要があります。例えば記憶力が障害されていても言語機能が維持されている場合、常にメモを残す習慣を習得できればメモで記憶機能を代償することが可能となります。
残された能力をきちんと見極め、それを最大限利用できるようアドバイスをし、環境を調整することが肝要です。

アロマセラピー

嗅神経は大脳の辺縁系と呼ばれる感情を司る領域に直接つながっています。認知機能の低下を防ぐには脳への刺激が重要ですので、アロマセラピーが認知症に効果があるというのは理にかなっているかと思われます。実際、ある施設で昼間にローズマリー、レモンの香りを、夜間にラベンダー、スイートオレンジの香りを嗅がせると認知機能が改善したという報告もあります。

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